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卓上型核磁気共鳴 (NMR) はコンパクトNMRとも呼ばれ、手元に置ける強力な分析技術となっています。NMR分光計は、低分子のファインケミカルからポリマー(高分子)に至るほぼすべての業界で、材料の構造解析や組成分析に広く用いられています。NMR分光計が卓上型になったことで、一般的な研究室や工場の製造環境でもNMR分析が実施できるようになり、大衆化による応用が広がりました。
卓上型NMR には次の2つのタイプがあります。
食品中の脂肪の品質管理用TD-NMRシステム (MQC+) | オートサンプラーを装備した卓上型NMR分光計 (X-Pulse)
NMR装置といえば、液体寒剤で満たされた大きなスチール製の容器が部屋全体を占拠しているイメージをもっている人が多いと思います。これは、冷却された超伝導磁石が大きな静磁場を発生させているためです。
これに対してに、卓上型NMRは寒剤が不要です。代わりに、希土類永久磁石を用いて大きな静磁場を発生させます。このため、NMR装置の設置面積が小さくなり、使用できる場所や環境が大幅に広がります。ただし、静磁場(B0と呼ばれることが多い)の総量は低くなり、一般的には0.5~2.5テスラ(T)の範囲となります。通常、磁場はその磁場における1Hの周波数、つまり約20~100メガヘルツ (MHz)*で指定されます。これは、幅広い化学や物理化学、材料の分析には十分な磁場強度です。分解能は高磁場NMRより低くなりますが、卓上型NMRは汎用性が高く、使い方が簡単で、メンテナンスも最小限で済みます。このようなコンパクトなシステムを新しい環境で動作させることができるため、まったく新しいアプリケーションが可能になります。たとえば、反応容器の横にNMRシステムを置き、反応混合物を流すことで、反応ダイナミクスの特性評価を含むリアルタイムの反応モニタリングが可能となります。
典型的なNMRシステムの概略図
NMRは表面的には非常に単純に見えます。基礎となる物理学や数学は複雑になりますが、多くの用途では「なぜ」さまざまな信号が得られるのかというトップレベルの理解で十分です。NMRの信号は原子の「核」に由来します。多くの原子核はスピンと呼ばれる量子力学的特性をもち、そのスピンはゼロではありません。そのため、原子核は小さな棒磁石のような働きをします。実際のサンプルには、このような小さな棒磁石がたくさん存在します。これらが大きな磁場の中に置かれると、そのうちのかなりの割合の原子核が、外部磁場に対して平行に整列します。平行または逆平行(反平行)に整列する原子核の数は、次の要素によって決まります。
卓上型NMRでは、その数は通常10万分の1スピン以下です。スピンが整列すると、1つ以上の高周波パルスが印加され、整列したスピンが励起されます。これらのスピンが励起状態から初期状態へと緩和するにつれて、スピンは歳差運動または共鳴を引き起こします。
NMR信号の発生を視覚的に描写
これらの小さな磁石の動きによって、検出用の電子機器に電圧が生じ、これが生のNMR信号となります。もっともシンプルな形では、これは自由誘導減衰 (FID, free induction decay) と呼ばれます。この励起と緩和のサイクルを繰り返すことで信号を蓄積し、ノイズを減らすことができます。この緩和データは、NMRリラクソメトリーとも呼ばれる時間領域NMR(TD-NMR, time domain NMR)で広く用いられています。TD-NMRは、特に特定の化合物の量を定量化するための物理化学データを提供します。信号の量がサンプル中の核の数に正比例するため、NMRは本質的に定量的です。たとえばTD-NMRは、食品中の脂肪含量や種子中の油分と水分の含有量、ポリマー中のフッ素含量、繊維製造におけるコーティングのオイルピックアップ(油の付着)を定量化します。オペレーターは最小限のトレーニングで済みますし、自動化された合否判定アナライザーが実はNMR装置であることに気づかないこともよくあります!
NMRは分光法だと思われがちですが、生のNMR信号は、時間の関数としての信号から周波数の関数としての信号にフーリエ変換されることで、一般的に知られているNMRスペクトルが生成されます。このNMRスペクトルから、特定の化合物の構造・化学組成や、混合物中のそれらの量の定量化、分子内に存在する化学的環境の種類など、豊富な化学的・構造的情報が得られます。
ほとんどの卓上型NMRシステムは、時間領域であっても分光法であっても、十分な機能を備えており、ユーザーはさらに幅広い実験を行うことができます。いくつかの例を以下に挙げます。
固体からのNMR信号は減衰時間が非常に短く、検出が困難です。そのため、測定は通常、信号が持続し検出が容易なサンプル内の液体に対して行われます。
TD-NMRでは、サンプルは通常固体(種子や食品サンプルなど)ですが、測定されるのはサンプル内部の液体含有量とその量です。サンプルは通常、直径10 mm以上のチューブに挿入されます。
NMR分光法では、直径5 mmのチューブが用いられますが、固体サンプルを入れるには小さすぎます。液体サンプルは適切な溶媒に溶かすか、分析用の液体を抽出することによって調整されます。
種子およびスナック菓子分析用のTD-NMRサンプルバイアル
まとめ: コンパクトな卓上型NMR装置から得られるデータは、この手法が使用可能なアプリケーションを大幅に拡大します。重要なことは、卓上型NMR装置によって、以前は中核的な研究室や中央施設での研究手法であったNMRが、研究室内のほぼどこにでも設置できるようになったこと、また、多くの製造環境におけるライン上やライン近くに設置できるようになったことです。
*NMR では、周波数は、印加された外部磁場周辺の原子核プロトンの磁気モーメントの歳差運動の速さです。
1H原子核の周波数 (MHz) = γ(42.58)*B0。