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違法薬物検査

卓上型NMRによるストリートドラッグの迅速なスクリーニング

違法薬物の蔓延は、人々の心身の健康に直接的な害を及ぼすだけでなく、社会や経済の発展にも深刻な影響を与えており、世界的な問題となっています。近年、従来の薬物に加えて多くの新精神活性物質(NPS)が登場し、その人気はますます高まっています。新精神活性物質は、「デザイナードラッグ」や「ラボラトリードラッグ」というようにも言われています。犯罪者は起訴を免れるために、規制薬物の化学構造を人為的に設計・変更し、規制薬物と同等あるいはそれ以上の効果を持つ新しいタイプを手に入れていきます。これらの物質の「新しい構造」により、従来の検出方法の一部が無効となり、社会全体の薬物防止・管理業務に大きな課題が生じています。すり抜けを見過ごすことはできません。

専門のオペレータを必要としない高速薬物スクリーニング

核磁気共鳴(NMR)技術は、化学分子構造内の結合に関する情報を得ることができます。これは、化合物の構造を特定するための直接的なツールであり、新精神活性物質の検出・同定のための有効な手段として利用できます。しかし、従来の高磁場超伝導NMR分光計は、操作や設置場所の条件に大きな制約があり、また、機器の使用やメンテナンスに高いコストがかかるため、ストリートドラッグの迅速なスクリーニングへのNMR技術の応用は限定的なものになっていました。

この問題に対応するため、オックスフォード・インストゥルメンツは、迅速な薬物同定のための新しい卓上型NMRソリューションを提供しています。オックスフォード・インストゥルメンツのX-Pulse卓上型NMR分光計は、希土類永久磁石を使用しており、液体窒素や液体ヘリウムなどの冷媒が不要です。また、操作やメンテナンスが簡単であり、疑わしい薬物サンプルのNMRスペクトルを素早く取得することができます。

Figure 1: 3種類のメトカチノンの1次元1Hスペクトル

付属の薬物データベースにより、未知のサンプルスペクトルを既知のリファレンススペクトルに対して迅速に分析したり、自動比較することが可能です。サンプルは、簡単な溶解・処理後にX-Pulseで検査が可能であり、スペクトルが自動で収集されます。付属の特殊薬物データベース(新しい化合物が発見された場合には更新可能)との比較とスコアマッチングが行われ、可能性のある物質の最適な推奨照合が得られます。複数の薬物が混合している場合でも、機器が自動でスペクトルを薬物のフィンガープリント(指紋)ライブラリに適合させ、混合薬物の可能な組み合わせを提案できるため、違法薬物を偽装することはできません。ほとんどのサンプルにおいて、完全に自動化されたデータ収集、処理、分析は、通常5〜20分以内に完了します。

Figure 1は、60 MHz X-Pulseによる3種類のメトカチノンの1次元1Hスペクトルを示しています。これら3種類の化合物の分子構造は非常によく似ており、フッ素原子を1つもつかどうか、また、そのベンゼン環上の置換位置がわずかに異なるだけです。スペクトルの化学シフトの高磁場側「タイプ識別領域」(例:0.5〜2.0 ppm)では、3つとも分裂した2重線を持ち、同じタイプの物質であることがわかります。また、スペクトルの化学シフトの低磁場側「フィンガープリント(指紋)領域」(例:7.0〜9.0 ppm)では、3種類の物質がそれぞれ固有のピーク特性を示しており、化学構造の区別が可能となります。未知の物質の「タイプ識別領域」と「フィンガープリント領域」を、データベースの標準試料のスペクトルとパターンマッチングさせることで、未知の物質の組成や構造を知ることができます。

アンフェタミン類似体

例としてメトカチノンを挙げます。メトカチノンはアンフェタミンのアナログ(類似体)であり、厳密に管理されたクラス I 向精神薬に属しています。急性の健康問題や恒久的な脳損傷を引き起こす可能性があり、重度の場合は生命を脅かすこともあります。

公安機関が押収した疑わしいサンプルのロットを、X-Pulseおよびガスクロマトグラフィ - 質量分析 (GC-MS) で同時に分析しました。その結果を表1に示します。分析したサンプルの総数は432個で、そのうち13個 (3.0%) はGC-MSのピークがないためNMRで確認できず、3個 (0.7%) は有効成分 (API) や混合物が含まれていませんでした。APIまたは混合物の含有が確認された残りの416サンプルのうち、387 (93.0%) のNMRおよびGC-MSの検査結果が完全に一致しました。これに、部分的に一致したサンプルを加えると、合計412個 (99.0%) になります。同じくらい重要なこととして、誤検知が見つからなかったことが挙げられます。このデータは、X-Pulseがストリートドラッグを高い精度と信頼性で検出・同定できることを示しています。

Sample Match CriteriaQuantityPercentage
Total number of samples analysed432
Unable to verify (GC-MS does not produce peaks) x133.0%
No API or admixtures30.7%
Cannot match40.9%
Correct match (single component sample)37486.6%
Correct match (two-component sample)133.0%
Partial matching (two-component or multi-component samples)255.8%
Verification of samples containing API or admixtures416
Exact match38793.0%
Exact + partial match41299.0%

Figure 2: X-Pulseを用いて検出されたストリートドラッグの種類と量。(a) 一成分化合物; (b) 二成分混合物 [1]

ストリートドラッグの同定 ―司法執行のためのデータ

X-Pulseの薬物データベースとの比較照合により、400以上の疑わしいサンプルにさまざまな種類の薬物が含まれていることが判明しました。単一成分の化合物からなるストリートドラッグでは、エクスタシー (MDMA) 、コカイン、ケタミンが多く検出され、2成分の混合サンプルでは、コカイン/レバミゾール、コカイン/ベンゾカインなどの混合物が主に検出されました (Figure 2)。

この結果は、公安司法識別機関が地域の薬物の種類と普及を理解し、それに対応する管理戦略と行動計画を策定するための貴重な参考資料となります。


References:

[1] Antonides LH et al., Rapid Identification of Novel Psychoactive and Other Controlled Substances Using Low-Field 1H NMR Spectroscopy, ACS Omega. 2019, 4: 7103-7112

[2] Mewis R et al., Quantification of MDMA in seized tablets using benchtop 1H NMR spectroscopy in the absence of internal standards, Forensic Chemistry, 2020, 20: 100263.

製品情報: 違法薬物の迅速検査のためのX-Pulse

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Case Study: ベンチトップNMRによるストリートドラッグの迅速なスクリーニング

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