QC/QA アナライザー
ロックコアアナライザー
ライブラリ
X-Pulse広帯域卓上型NMR分光計には、さまざまな核種を観測するための3つのチャネルが搭載されています。1つは重水素(2H)ロック信号用のチャンネルです。もう1つは、共鳴周波数の高い核、プロトン(1H)およびフッ素(19F)の信号用、 そして3つ目のXチャンネルはその他の核用で(25~11 MHz)、NMR分光学者はしばしば X-核と呼んでいます。核種の違いによるNMRへの適合性を比較する場合、考慮すべき重要な点がいくつかあり、一般に、核スピン、天然存在比、周波数および相対感度が挙げられます。これらの要因がNMR分光法にどのような影響を与えるかについては、こちらのアプリケーションノートをご覧ください。
この短い動画では、1台のX-Pulseで7つの核のスペクトルを取得するデモを行い、X-Pulseをさまざまな核やサンプルに合わせて調整することが、非常に簡単かつ迅速であることを示しています。
お問い合わせX-Pulse広帯域卓上型NMR分光計で観測されたNMR活性を示す核種の一部を以下に紹介します。
¹H(プロトン)はNMR分光法で使用される典型的な原子核であり、最も感度が高く、多くの化合物に存在します。単純な反磁性有機化合物や有機金属化合物の信号は、δH −5~+15 ppm(基準:CDCl₃ 中の (CH₃)₄Si)の範囲に観測され、化学的環境と化学シフトとの相関は十分に確立されています。
2番目に高い相対感度をもつ原子核として、¹⁹FはNMR分光法でよく研究されており、δF +100~-250 ppm(基準:CCl₃F)と、¹Hに比べてかなり広い範囲に観測されます。¹⁹Fは¹Hと同様にスピン量子数が1/2の核であり、フッ素(¹⁹F)-フッ素(¹⁹F)、フッ素(¹⁹F)-プロトン(¹H)のカップリングがよく観測されます。フッ素化合物は、医薬品、バルク化学品、およびバッテリーといった電気化学デバイスなど、非常に幅広い用途で使用されています。
¹³Cは、有機化学や生命科学における炭素の重要性から、NMR分光法では¹H に次いで多く研究されている原子核です。しかし、¹³CはNMR活性核種の中でも相対感度が最も低い核種です。そのため、炭素がこれほどまでに存在していなければ、¹³C NMRはNMR分光法でここまで研究されることはなかったかもしれません。¹³C NMRスペクトルは、通常、プロトン(¹H)と炭素(¹³C)のカップリングによるピークの分裂を除去する、デカップリングと呼ばれる手法を用いて、スペクトルを大幅に単純化し、S/N比を向上させています。有機低分子化合物の多くは、¹H をデカップリングした¹³C NMRスペクトルを生成し、その化学シフトはδC 0~+200 ppmの範囲(基準:CDCl₃ 中の (CH₃)₄Si)にシャープなシングレットピークとして観測されます。
³¹P NMR分光法は、リンを含む配位子を用いることが多い錯体化学や触媒反応によく用いられます。また、リン酸塩 (PO₄³-) は多くの生化学的経路で重要な役割を果たしており、リンを含む化合物は医薬品や栄養補助食品に含まれていることから、NMRによる研究に適しています。さらに、リチウムイオン電池によく用いられているヘキサフルオロリン酸アニオンなど、リンを含むアニオンも数多く存在します。³¹Pスペクトルはプロトン(¹H)をデカップリングしたものが一般的であり、δP -180〜+250 ppm(基準:D₂O中のH₃PO₄)の広い範囲に通常シャープな信号が観測されます。
¹¹Bは四極子核であり、スピンが3/2であるため、スピン1/2の原子核よりも一般的にブロードな信号となり、δB -120〜+90 ppm(基準:CDCl₃中のBF₃·OEt₂)の範囲に観測されます。また、そのNMR信号の線幅は、分子の大きさやホウ素を中心とした対称性に強く依存します。ホウ素を含む化合物は、ルイス酸触媒や鈴木-宮浦クロスカップリング反応など、さまざまな用途があり、ファインケミカルや医薬品の合成の中間体としてよく用られています。
ナトリウムは地殻中で6番目に多い元素であり、生体内に広く存在しています。また、ナトリウムを含む化合物は、有機金属化学において重要な試薬でもあります。さらに、ナトリウムは食品、飲料、医薬品、石油添加物、ポリマーなど、非常に幅広い物質の構成要素となっています。²³Naは四極子核であり、線幅は分子の対称性や大きさに強く依存します。²³Naの信号は、δNa +10〜-60 ppmの範囲に観測されます(基準:D₂O中のNaCl)。
リチウムを含む化合物は有機金属化学において重要な試薬です。リチウムは医薬品に使用されているものの、生物学的な役割はあまり知られていません。リチウムはエネルギー貯蔵システム(バッテリー)への用途が急速に拡大しており、リチウムイオン電池に使用されるLi+カチオンを含む溶液はNMR分光法による研究に適しています。⁷Liは四極子核であり、線幅は分子の対称性や大きさに強く依存します。⁷Liの信号は、δLi +15~-20 ppmの範囲に観測されます(基準:D₂O中のLiCl)。
²⁹Si NMR分光法は、接着剤、潤滑剤、シーリング剤などのアプリケーションがあり、医療や家庭でも使用されているポリシロキサン(シリコーン)とそのモノマー前駆体の分析などにも有用です。²⁹Siは相対感度が低い核であり、NMR信号は、δSi −350〜+175 ppm(基準:(CH₃)₄Si)の範囲に観測されます。²⁹Si NMRの感度向上には、¹³C NMRで使用されている方法が適用できます。例えば、DEPT(Distortionless Enhancement by Polarisation Transfer)などのパルスシーケンスを用いて、²⁹Si核ではなく、感度の高いプロトン(¹H)を励起する方法があります。
⁵⁹Coは、異なる化合物の化学シフトの変化が初めて観測された核として、NMR分光法の発展に重要な役割を果たしました。コバルト化合物の多くは常磁性体であるため、⁵⁹Co NMR分光法が適用されるのは一般的に低スピンのコバルト(Ⅰ)およびコバルト(Ⅲ)錯体に限られます。⁵⁹Co の信号は、δCo −4,000〜+14,000 ppm(基準:D₂O中のK₃[Co(CN)₆])の範囲に観測され、化学シフトの範囲が最も広い核となっています。
²⁷Alは、相対感度の高い核であり、通常、δAl -200〜+200 ppm(基準:D₂O中のAl(NO₃)₃)の範囲にブロードな信号が観測されます。アルミニウムを含む化合物は、医薬品やファインケミカルの合成の中間体としてよく用いられています。また、アルミニウムはエネルギー貯蔵にも利用されており、アルミニウムイオン電池は、地殻中にアルミニウムが豊富なことや、理論上、エネルギー密度が高いことにより、リチウムイオン電池の代替となる可能性があります。
© オックスフォード・インストゥルメンツ 2024